意思決定を分散させることは、現場の裁量を高め、スピードを上げるための手段として語られることがあります。判断を一か所に集めず、それぞれの立場で決められるようにする考え方は、一見すると合理的です。しかし、分散が進みすぎると、別の課題が浮かび上がります。
意思決定が分散しすぎると、全体としての方向性が見えにくくなります。個々の判断は合理的であっても、判断同士の整合が取れていない状態が生まれます。その結果、組織全体として何を目指しているのかが曖昧になります。
また、判断の境界が不明確になることも問題です。どこまでが自分の判断で、どこからが他者の判断なのかが分からないと、責任の所在が曖昧になります。その結果、重要な判断ほど避けられ、無難な選択が積み重なります。
さらに、分散された判断を後から調整するコストも増えます。個別に下された判断をすり合わせるために、会議や確認が増え、結果としてスピードは落ちます。分散によって速くなるはずだった意思決定が、全体では遅くなります。
この状態では、「誰かが全体を見ているはずだ」という期待が生まれやすくなります。しかし実際には、全体を見る役割が明確でないため、重要なズレが見逃されます。
意思決定を分散させること自体が問題なのではありません。分散させる範囲と、全体を統合する仕組みが整理されていないことが課題です。分散と統合のバランスが取れていなければ、意思決定は機能しにくくなります。