組織が大きくなるにつれて、役割が細かく分かれていくのは自然な流れです。専門性を高め、責任の所在を明確にするために役割を分けることは、一見すると合理的に見えます。しかし、役割が増えるほど、意思決定が遅くなるという現象も同時に起こりやすくなります。
役割が少ない状態では、判断に関わる人も限られています。誰が決めるのかが分かりやすく、必要な情報も比較的シンプルです。そのため、判断は速く行われます。しかし役割が増えると、判断に関与すべき人が増え、確認や調整の工程が増えていきます。
それぞれの役割には守るべき観点があります。リスクを見る役割、コストを見る役割、全体最適を見る役割など、それぞれが正しい視点を持っています。ただし、それらをすべて満たそうとすると、判断は一度で終わらなくなります。誰かが決めても、別の役割から修正が入り、再検討が必要になるという循環が生まれます。
さらに、役割が増えると「自分の役割の範囲外では決めない」という姿勢が強まりやすくなります。責任を明確にするために分けたはずの役割が、結果として判断を先送りする理由になってしまうのです。誰も間違ったことを言っていないのに、決定だけが進まない状態が生まれます。
この構造の厄介な点は、個人の問題に見えにくいことです。誰かが怠けているわけでも、能力が不足しているわけでもありません。役割分担という仕組みそのものが、意思決定を遅くする方向に働いています。
役割を減らすことが常に正解とは限りませんが、役割を増やせば判断が速くなるわけでもありません。意思決定が遅いと感じたとき、個人の姿勢を疑う前に、役割の分け方そのものが判断にどのような影響を与えているのかを見直す必要があります。